医師が紹介する、お酒に酔いにくくなる簡単・オススメの方法は?

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コロナが蔓延する中、飲み会の機会は減っていることと思います。

一方で自宅で飲む機会が増えた、という方は多いのではないでしょうか。

ついつい飲み過ぎて寝る頃に頭痛に苦しんだり、翌朝後悔したり・・

お酒に酔いにくくなる方法はないのでしょうか。

巷では様々な方法が紹介されておりますので、それぞれ科学的に証明されているか検証してみます。

 

血中アルコール濃度の上昇を抑えるための方法は、

・アルコールの吸収を遅らせる

・アルコールの吸収量を減らす

・アルコールの分解を促進する

といった方法が考えられます。

これらの観点にも注目しつつ、論文レベルで有効であると報告されている方法を紹介します。

 

 

まずはじめに・・

<アルコールってどうやって吸収・代謝されるの?>

口から入ったアルコールは主に小腸から吸収されます。

摂取したアルコールの10%のみが胃から吸収されます。

初期の粘膜吸収は摂取後10分以内に始まり、血中アルコール濃度は30分から90分の間にピークに到達します。

標準的な一杯の飲み物には約10~12mgのエタノールが含まれており、70kgの男性の血中アルコール濃度を15~20mg/dL上昇させると推定されています。

一方、吸収されたアルコールの90%は肝臓で酸化により1時間あたり平均15mg/dLの割合で代謝されます。

よって、この割合を超えてアルコールを摂取すると、体内に蓄積されて酩酊症状を誘発します1)

 

  • ずばり、簡単にできる、酔いにくくなる方法は?

最も簡単な方法は、お酒と一緒に水分を摂取することです。

お酒に強いラットを用いた研究では、血中アルコール濃度はアルコール摂取量よりもアルコール摂取量と総水分摂取量の比と相関が強いと報告されています1)

つまり、同じ量のお酒を飲んでも、水分を多く摂取するほど血中アルコール濃度が低くなります。

日本酒を飲むときの「和らぎ水(やわらぎみず)」やウイスキーを飲むときの「チェーサー」の文化を粋に取り入れてみるといいのではないでしょうか。

また、空腹時ではなく、食事と一緒に摂取することです。

食事と共に飲酒することでアルコールの吸収が遅れます2)

胃蠕動に対する食事の影響は複雑で、アミノ酸は胃蠕動を促進するガストリンの分泌を刺激する一方、胃蠕動を抑制するコレシストキニンの分泌も刺激します。

また、ガストリンは胃蠕動を抑制するソマトスタチンの分泌を刺激します。

よって、何を食べるべき、というよりは十分な量の食べ物と一緒に飲むことを心掛けておくといいと思います。

ちなみに、アルコール(ビール、赤ワイン、ウイスキー)自体はエタノール量が多ければ多いほど胃内容物の排泄時間を遅らせることがわかっています3)。(よって小腸で吸収されるのに時間がかかる)

 

  • 少し効果があるかもしれない方法は?

筋トレをすることです。

体重が大きいほど急性アルコール中毒の程度は小さくなると言われているため1)、筋トレで筋肉量を増やしてみてはいかがでしょうか。

ただ、何倍も増量することは難しいので気持ち程度の変化にはなると思います。

アルコール中毒の解毒剤は存在しませんが、「メタドキシン」は、アセトアルデヒド脱水素酵素活性の増加、エタノールおよびアセトアルデヒド血漿クリアランスの増加、およびケトンの尿中排泄を含むいくつかのメカニズムに起因してエタノール代謝を促進する可能性があることが報告されております2,4)

しかし、「メタドキシン」について調べてみると、2013年にPhase 1試験を施行した形跡はありますが、その後の経過は不明で商品化されていないようです(中国からの直輸入はありそうです・・)。なので効果があるかわからないし、手に入らない。

また、「ジヒドロミリセチン」という、中国で二日酔いの民間薬として使用されてきた Hovenia (ケンポナシ?)のフラボノイド成分が急性アルコール中毒やアルコール離脱症状の緩和に効果があると報告されています2,5)

お酒に弱い方!二日酔いに効く!韓国売上No.1のコンディションケンポナシ(二日酔い解消ドリンク) なるものがアマゾンで販売されているようなので、試してみてもいいかもしれません。

私は試したことはありません。

 

  • 「ウコン」や「ヘパリーゼ」の効果は?

正直なところ、なぜウコンやヘパリーゼが酔いにくくなるものとして認知されているのか理解できません。

結論から、ウコンやヘパリーゼで酔いにくくなったり、二日酔いが改善することはないと考えて良さそうです。

まずは有名な「ウコンの力」のハウスのホームページを見てみると、

健康成分 「クルクミン」と「ビサクロン」で皆様の毎日を応援!

とか

スケジュール調整サポート 幹事の力

とは書いてあるものの、「酔いにくくなる」とか「二日酔いを改善」とは一言も書いてありません。私はビサクロンの効果をサラッと説明できる人に会ったことがありません。

では、国内におけるウコンとアルコール代謝の研究はどうかというと、ラットでは血中エタノール濃度の上昇を穏やかにすると報告されておりますが6)、ヒトでの研究は対象人数が記載されておらず評価できない論文のみ7)・・という状態です。

ウコンについては厚生労働省のホームページ科学的根拠が記載されており、

  • ウコンに関する臨床試験はほとんど行われていないため、どの疾患に対してもウコンの効果を支持する信頼のおける根拠はほとんどありません。
  • 動物実験や基礎試験による予備的知見によると、ウコンに含有されるクルクミンという化学物質は、抗炎症作用、抗がん作用および抗酸化作用を有する可能性がありますが、これらの知見は人を対象とした試験で証明されていません。

とあり、副作用と注意事項については、

  • ほとんどの成人に対してウコンは安全であると考えられます。
  • ウコンを高用量摂取したり長期間摂取したりすると、消化不良、嘔気、下痢がおこる可能性があります。
  • 動物では、高用量のウコン投与により肝機能障害が認められました。ヒトでは肝機能障害の報告はありません。
  • 胆嚢疾患患者は、症状を悪化させるおそれがあるため、ウコンのサプリメントを摂取すべきではありません。

とあります。

医中誌(医学領域の日本語論文を検索するサイト)では、ヒトにおけるウコンによる肝障害もわずかではあるが報告されております8)

「ウコンの力」はすっきり飲みやすいフルーツ風味も売りにしている清涼飲料水で、私も味が気に入っているので飲むことはあります。

しかし、ウコンを多く摂取することが健康につながるとは言えないでしょう。

 

では、ヘパリーゼについて。

ヘパリーゼ プラスⅡについてゼリア新薬のホームページを見ると、効能・効果は

 滋養強壮、胃腸障害・栄養障害・病中病後・肉体疲労・発熱性消耗性疾患・妊娠授乳期などの場合の栄養補給、虚弱体質

とあり、こちらも酔いにくくなったり、二日酔いを改善する効果は記載されておりません。

効能・効果がはっきりと記載されているのは第3類医薬品だからで、この点はウコンの力とは異なります。

有効成分[1日量(6錠)中]は以下の通り。

肝臓水解物600mg

イノシトール100mg

ビタミンB2(リボフラビン)12mg

ビタミンE酢酸エステル10mg

肝臓水解物は、天然の良質なレバーに消化酵素を加えて加水分解し、効率よく栄養を取り入れるために、アミノ酸やペプチドの形にしたもの、とのことです。つまりレバー。

「ヘパリーゼ」で検索すると、論文発表は1件ヒットし、ラットでの研究でヘパリーゼに含まれる「肝臓エキス」と「活性化ビタミンB2」が急性肝障害を引き起こす四塩化炭素による肝酵素上昇を抑えた、と報告されています9)

この論文ではアルコールによる肝障害についての記載はありません。

よって、ヘパリーゼとアルコールは関係ないものと考え、記載されている効能・効果を期待する際に飲用すると良いでしょう。

 

  • 普段から飲んで鍛えると強くなる?

術後、お酒飲んでいいですか?【手術と飲酒の関係についてまとめてみました】の記事で紹介したアルコール代謝経路を参照します。

アルコール代謝は、エタノール→アセトアルデヒド→酢酸→二酸化炭素+水、といった流れで代謝されていきます10)

「エタノール→アセトアルデヒド」の代謝は、ADH(アルコール脱水素酵素)、MEOS(osomal ethanol oxidizing system)、カタラーゼの3経路が知られています。

ここで、普段からアルコールを飲んで消費量が多くなるほどMEOS経路による代謝率が高くなることが知られています。

よって一見アルコールの分解が促進されるように見えますが、代謝産物のアセトアルデヒドが増えることで肝毒性や発癌性などの悪影響を及ぼします。

なので、あまり飲めない人(顔が赤くなりやすい人など)が飲酒量を増やせたケースは、かなり体に悪いと考えた方がいいです。

消化器外科領域では、食道癌のリスクが上昇することは有名です。

果物の摂取がそのリスクを減らすともいわれていますが、果物を摂取すれば全て相殺、というわけではないので油断せず。

 

  • あまり注目されていないようだけど、個人的なオススメ!

2013年の論文では「より完全な肝臓の保護はアセトアルデヒドの効果的な除去によりますが、残念ながら、十分に活性があり利用可能なアルデヒド脱水素酵素はありません」と報告されていました11)

時は流れ、2018年のある日、学会会場で偶然キューピーの方に紹介された粒にとても興味を持ちました。

アルコールの吸収量を減らす方法です。

なんでも、酢酸菌の表面に存在する酵素である、「アルコール脱水素酵素」と「アルデヒド脱水素酵素」が含まれているとのこと。

先ほど紹介したアルコール代謝において、アルコール脱水素酵素は「エタノール→アセトアルデヒド」の分解で活躍し、アルデヒド脱水素酵素は「アセトアルデヒド→酢酸」の分解で活躍します。

つまり、酢酸菌酵素によってエタノール→酢酸へ変換できるのです。

アルコールが吸収される前に酵素が働くことによって、アルコールの吸収量が減少し、実際に血中・呼気中アルコール濃度が低下することがわかりました。すごい。

また、酢酸菌酵素を継続摂取することにより、飲酒時の肝酵素上昇や脂肪肝が軽減されました。

ただ、酢酸菌酵素を多く飲んでも体内のアルコール濃度が0になるわけではなく、20%ほど減少するにとどまること、肝機能障害が完全に防げるわけではないことに注意してください。

それでもアセトアルデヒドが分解されるところは画期的なのではないかと思いました。

 

ところで、この酢酸菌酵素、私実際に飲んだことがあります。

大事な会食の直前に飲んだところ、まったく酔いませんでした。

普段からあまり酔わないこと、緊張して余計に酔わなかった可能性は否定できませんが、酵素の力もあったのではないかと愚考しております。

そんな酢酸菌酵素、「飲む人のための よいとき」がアマゾンで販売されていましたので、気になる方は是非お試しください。(最後の最後で宣伝のようになってしまいました)

ウコン含め、巷で有名だけど、本当に効果はあるの?と気になることがある方のために、厚生労働省で公表されているホームページがわかりやすくてオススメなので紹介しておきます。

厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』

 

<参考文献>

  1. Dilley JE, Nicholson ER, Fischer SM, et al. Alcohol Drinking and Blood Alcohol Concentration Revisited. Alcohol Clin Exp Res. 2018;42(2):260-269.
  2. Jung YC, Namkoong K. Alcohol: intoxication and poisoning – diagnosis and treatment. Handb Clin Neurol. 2014;125:115-21.
  3. Kasicka-Jonderko A, Jonderko K, Bożek M, et al. Potent inhibitory effect of alcoholic beverages upon gastrointestinal passage of food and gallbladder emptying. J Gastroenterol. 2013;48(12):1311-23.
  4. Shpilenya LS, Muzychenko AP, Gasbarrini G, et al. Metadoxine in acute alcohol intoxication: a double-blind, randomized, placebo-controlled study. Alcohol Clin Exp Res. 2002;26(3):340-6.
  5. Shen Y, Lindemeyer AK, Gonzalez C, et al. Dihydromyricetin as a novel anti-alcohol intoxication medication. J Neurosci. 2012;32(1):390-401.
  6. 藤丸 由紀子, 加藤 敬太, 竹内 敬子, 他. ウコン・肝臓エキス・乳酸菌配合飲料のアルコールによる胃粘膜傷害ならびにアルコール吸収に対する効果. 医学と薬学. 2018;76(1):57-62.
  7. 浜野 拓也, 西 学, 伊藤 禎司, 他. ウコン抽出物が健常成人のアルコール代謝に及ぼす影響の検討. 応用薬理. 2007;72(1-2):31-38.
  8. 木村 吉秀, 山内 学, 成田 真, 他. ウコンによる薬物性肝障害により影響を受けた自己免疫性肝炎の1例. 肝臓. 2005;46(1):26-32.
  9. 田中 芳明, 米田 智幸, 武井 峰男, 他. ヘパリーゼ(R)注のラット急性肝障害モデルに対する保護効果. 薬理と治療. 1994;22(9):3799-3803.
  10. 杉本 和史, 竹井 謙之. 【肝炎ウイルス制御時代の肝疾患診療】アルコール性肝障害ルネサンス. 日本消化器病学会雑誌  2018;115(9):788-796.
  11. Liu Y, Du J, Yan M, et al. Biomimetic enzyme nanocomplexes and their use as antidotes and preventive measures for alcohol intoxication. Nat Nanotechnol. 2013;8(3):187-92.

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