COVID-19(新型コロナウイルス感染症)による全身倦怠感について

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「肺炎」として有名なCOVID-19ですが、もし、全身倦怠感のみ出現した場合はどうすればよいのでしょうか。

厚生労働省のホームページを見てみると、

症状がある場合の相談や新型コロナウイルス感染症に対する医療について

問1 熱や咳があります。どうしたらよいでしょうか。

問2 発熱の継続はどのように確認すればいいですか。

問3 「帰国者・接触者相談センター」は何をするところですか。

問4 新型コロナウイルスへの感染が心配される場合、直に医療機関を受診しないように、複数の医療機関を受診することを控えるように、とされているのはなぜでしょうか。

問5 電話やオンラインによる診断や処方を受けたいのですが、どうしたら受けられますか。

問6 「PCR検査がしたくても、受けられない」、「日本のPCRの実施件数が諸外国と比べて少ない」との指摘がありますがどうなっているのですか。

問7 陽性になって入院した場合、どうなったら退院できますか。

問8 新型コロナウイルスは重症化しやすいのですか。

問9 医療体制を堅持するための政府の考え方はどういうものですか。また、国民はどのような協力が必要ですか。

問10 緊急以外の手術の延期など、コロナウイルス以外の病気での受診にしわ寄せが生じているのではないですか。

問11 歯科医師もPCR検査ができるようになる、という報道がありました。歯科診療所でPCR検査を行ってもらうことができますか。

問12 コロナウイルスの感染が拡大する中で、医療従事者や病床数の不足、院内感染の発生などにより、我が国の医療能力が低下しているのでしょうか。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html

とあります。

発熱、咳については明記されており、問1の詳細を見てみると、

帰国者・接触者相談センター等にご相談いただく際の目安として、少なくとも以下の条件に当てはまる方は、すぐにご相談ください。

☆ 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合

☆ 重症化しやすい方(※)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合

※高齢者をはじめ、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)など)がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方

☆ 上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合

(症状が4日以上続く場合は必ずご相談ください。症状には個人差がありますので、強い症状と思う場合にはすぐに相談してください。解熱剤などを飲み続けなければならない方も同様です。)

と記載されています。

「帰国者・接触者相談センター」へ相談して感染が疑われると判断された場合は「勧められた医療機関を受診してください」。医師の診察後、必要に応じて新型コロナウイルスのPCR検査を受けていただくこととなっております。

ということで、まずは都道府県に設置され、24時間対応している帰国者・接触者相談センターへ電話して相談してみると良さそうです。

 

ここで、我々のような発熱外来を担当する医療従事者の目線で「倦怠感」をみてみようと思います。

発熱外来にて、数日持続する37℃前半の微熱と全身倦怠感で来院された方を診察することになりました。

喉の痛みや咳、痰、息苦しさなどの「呼吸器症状」はありません

採血では肺炎の際にみられるような炎症上昇はなく、肺のCTでも肺炎所見はなくきれいな肺でした。

以前話題に取り上げた通り(「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)による味覚障害・嗅覚障害の機序について」)、COVID-19では必ずしも呼吸器症状から出現するわけではなさそうであることが指摘されています。

倦怠感はどれほどCOVID-19と関連があるのでしょうか。また、倦怠感のみの段階ではどうすればよいのでしょうか。

早速「PubMed」(新型コロナに関する情報を収集するにも役に立つ英語論文の検索サイト)で調べてみます。

SARS-CoV-2」(新型コロナウイルス)、「malaise」(倦怠感)で検索すると、11件ヒットしました。

そのうち2件1,2)は本文を入手できず、要旨のみ参照しました。

COVID-19感染症による一般的な臨床症状として、発熱、悪寒、咳、息切れ、全身筋痛、倦怠感、眠気、下痢、混乱、結膜炎、呼吸困難、肺炎が報告されています1-7)

倦怠感は数日で自然軽快することもありますが1,9)、ARDSの症状を伴う軽度の肺炎を呈し、その後悪化することもあります6)

症状の発現から呼吸困難になるまでの時間の中央値は5日、入院は7日、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は8日でした。

合併症としては、急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、ショック、急性腎損傷などが認められ、2~3週間後から回復し始めました。

入院した成人患者の致死率は4~11%で、感染者全体の致死率は2~3%と推定されています7)

オランダからの論文5)では、軽度の症状を持つ医療従事者803人を対象にSARS-CoV-2のPCR検査を行い、90人(11.2)が陽性でした。症状質問票に記入してもらったところ、陽性の医療従事者では頭痛(71%)、全身倦怠感(63%)、筋肉痛(63%)が最も頻繁に報告されました。

一般的な非呼吸器症状(筋肉痛、眼痛、全身倦怠感、頭痛、極度の疲労感)は検査陽性と関連しており、呼吸器症状はいずれもSARS-CoV-2陽性と関連していませんでした

これは結構意外でした。

一般的な風邪症状やくしゃみ、咳、息切れ、鼻汁、咽頭痛よりも、筋肉痛や眼痛などの方が検査陽性の確率が高くなる点は注目すべきポイントだと思います。

全身倦怠感も重要な症状で、全身倦怠感がある場合、検査陽性となる確率は4.2になります。

無嗅覚症は特に検査陽性と強く関連しており、無嗅覚症がある場合、検査陽性となる確率は23.0になるようです。

その他、筋肉痛は6.9倍、眼痛は4.5倍、頭痛は3.5倍、極度の疲労感は2.8倍、発熱は2.7倍でした。

SARS-CoV-2陽性と最も強く関連する7つの症状(無嗅覚症、筋肉痛、眼痛、全身倦怠感、頭痛、極度の疲労感、発熱)に基づいた単純予測モデルでは、無呼吸を3点、筋肉痛を2点、その他を1点として評価した結果、高感度91.2)と中等度の特異度55.6)となりました。

 

今回の検索範囲内では、倦怠感のみの場合に限定した対処策は明記されておりませんでした。

現状では重症度に応じて自宅待機や入院、酸素療法、呼吸器の使用を行っているため、今回は自宅待機が適切と判断しました。

ところで、自宅待機中に注意すべきこと、また、予防のために推奨されることはあるのでしょうか。

厚生労働省のホームページでは、家族に新型コロナウイルス感染がいる場合の「8つのポイント」が掲載されています。ざっくりと、

・部屋を分ける

・感染者の看病は限られた人で

・マスクをつける

・手を洗う

・換気をする

・手で触れる共有部分を消毒する

・汚れたリネン、衣服を洗濯する

・ゴミは密閉して捨てる

となっています。

今回の検索した論文では、

危険な兆候についてのカウンセリングを受けながら自宅管理し、原則は、水分補給栄養の維持発熱と咳のコントロールであるとも記載されています。

また、日光の当たる場所で換気を行うこと、患者にサージカルマスクの着用と咳の衛生管理を徹底する、と推奨されていました7)

 

「倦怠感」を特別に注目しているわけではない論文では妊婦の感染における症例報告(垂直感染はないというケースシリーズと、垂直感染したという1例報告)8,10)やウナニ医学(伝統医学の一種 インドの論文)によるアプローチ9)、頭蓋神経障害に関する論文11)もありました。

時が経つにつれ、様々な報告が出来てきた印象です。

規制緩和の可能性も出てきつつありますが、「ドイツでは規制緩和から数日で感染者が増加した」とのニュースもあるので、引き続き注意が必要と感じます。

もっとも、ドイツの件は潜伏期間を考慮すると感染者の増加は必ずしも規制緩和が原因ではないと考えられますが。

 

収束までは長い道のりになりそうであり、診療体制はもう元には戻らないかもしれません。

感染のピークを低く抑えて時間を稼ぎ、その間に新しい生活様式を構築していく必要があると思います。

 

<参考文献>

  1. McCullough PA, Eidt J, Rangaswami J, et al. Urgent need for individual mobile phone and institutional reporting of at home, hospitalized, and intensive care unit cases of SARS-CoV-2 (COVID-19) infection. Rev Cardiovasc Med. 2020;21(1):1-7.
  2. Meo SA, Alhowikan AM, Al-Khlaiwi T, et al. Novel coronavirus 2019-nCoV: prevalence, biological and clinical characteristics comparison with SARS-CoV and MERS-CoV. Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2020;24(4):2012-2019.
  3. Scalinci SZ, Trovato Battagliola E. Conjunctivitis can be the only presenting sign and symptom of COVID-19. IDCases. 2020;20:e00774.
  4. Yu J, Zhang T, Zhao D, et al. Characteristics of Endodontic Emergencies during Coronavirus Disease 2019 Outbreak in Wuhan. J Endod. 2020 Apr 10.
  5. Tostmann A, Bradley J, Bousema T, et al. Strong associations and moderate predictive value of early symptoms for SARS-CoV-2 test positivity among healthcare workers, the Netherlands, March 2020. Euro Surveill. 2020;25(16).
  6. Gabutti G, d’Anchera E, Sandri F, et al. Coronavirus: Update Related to the Current Outbreak of COVID-19. Infect Dis Ther. 2020 Apr 8:1-13.
  7. Singhal T. A Review of Coronavirus Disease-2019 (COVID-19). Indian J Pediatr. 2020;87(4):281-286.
  8. Alzamora MC, Paredes T, Caceres D, et al. Severe COVID-19 during Pregnancy and Possible Vertical Transmission. Am J Perinatol. 2020 Apr 18.
  9. Nikhat S, Fazil M. Overview of Covid-19; its prevention and management in the light of Unani medicine. Sci Total Environ. 2020 Apr 22;728:138859.
  10. Chen H, Guo J, Wang C, et al. Clinical characteristics and intrauterine vertical transmission potential of COVID-19 infection in nine pregnant women: a retrospective review of medical records. Lancet. 2020;395(10226):809-815.
  11. Gutiérrez-Ortiz C, Méndez A, Rodrigo-Rey S, et al. Miller Fisher Syndrome and polyneuritis cranialis in COVID-19. Neurology. 2020 Apr 17.

 

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