うん○の驚くべき実力【細菌と消化管の関係】

Pocket

注意:これから、う○この話を始めます。酒の話ではありません。

 

ちょっと前にセンセーショナルな治療が医学界で有名な雑誌(New England Journal of Medicine)に報告され、話題になりました。

糞便移植

荒療治でありながら、その効果は絶大だな、と感心したものです。

まずは事の発端から。

何らかの細菌感染症(私が携わる消化器外科領域では虫垂炎や胆嚢炎など)にかかってしまった場合、必要に応じて抗生剤治療を行います。

虫垂炎は抗生剤で治ってしまうことも結構あるのですが、のちに下痢がでてくることがたまにあるんですね。

腹痛や微熱なんかもあって、これは、と思って糞便の検査をすると、CDトキシン陽性、と出てきて「クロストリジウム感染症(Clostridium difficile infection, CDI)」ですね、と診断に至るわけです。

さてこのCDI、別の抗生剤を飲んで治療すると大体治って一件落着となるのですが、中には難渋するケースもあります。

手を変え品を変え、抗生剤を注腸してみたり・・

という苦境を味わっている最中、先に紹介した論文が出てきたわけです。1)

「糞便移植」の名の通り、健康な人(色々な感染症がないことが確認されている)の糞便(の懸濁液)を難渋するCDI患者の体内に入れるんです。

方法:16人を対象。バンコマイシン(抗生剤)を4-5日間内服し、最終日にマグコロール(大腸カメラの前に飲むような液体)を4L飲んで腸管洗浄します。その翌日、鼻から管を挿入して食道・胃を抜けて十二指腸まで誘導し、糞便の懸濁液を注入します。

(うん○を注入するまではいいが、その管引き抜くときに喉元をう○こが通過するよな・・)

比較対象として、抗生剤内服を継続するグループ(13人)と、抗生剤内服に腸管洗浄を追加するグループ(13人)を用意しました。

さて10週間後の治療結果は・・

糞便を注入した16人中13人(81%)が治癒しました。

一方、抗生剤内服のみでは13人中4人(31%)、抗生剤+腸管洗浄では13人中3人(23%)が治癒しました。

抗生剤治療で改善しなかった18人にも糞便を注入したら15人(83%)が治癒しました。

 

スゴイ。

う○こって知られざる力を持っているだな・・と感心したものです。

 

ところで、久しぶりに糞便移植の情報をアップデートしよう、と例のNew England Journal of Medicineをフォローすると、2019年に糞便移植のリスクについても報告されていました。2)

健康な人からとった糞便ですが、当然人それぞれ中身が異なるわけで、中には耐性菌が含まれていることで、糞便移植によって耐性菌を感染させてしまうリスクが指摘されています。

実際に2人の重症感染者が報告され、うち1人は死亡しています。

ただし、この2人は元々重篤が疾患を持っており、1人は肝性脳症を伴う肝硬変、もう1人は造血細胞移植による血液異形成でした。

また、2人とも腸管腔内細菌に対して広く活性のある抗生物質を併用していたため、移植された病原体に対して抵抗性を示す腸内微生物群が減少していた可能性があります。

今のところ合併症が少ない糞便移植ですが、リスクを軽減するために、移植糞便の検査を改善する必要があります。

また、移植糞便の提供者と受け手のマッチングを改善することで結果が改善される可能性がある。

とのことでした。

効果的な治療方法ですが、まだまだ研究が必要ですね。

 

うんこは宝の山

 

<参考文献>

  1. van Nood E, Vrieze A, Nieuwdorp M, et al. Duodenal infusion of donor feces for recurrent Clostridium difficile. N Engl J Med. 2013;368(5):407-15.
  2. Blaser MJ. Fecal Microbiota Transplantation for Dysbiosis – Predictable Risks. N Engl J Med. 2019;381(21):2064-2066.

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です