医師の働き方改革に対して病院ができること【うまくいっている私の勤務先の現状と、ブラック病院の闇】

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2024年4月から、ついに医師の働き方改革が始まります。

この記事は医療従事者や病院の管理者に良い影響を受けてもらいたい、また、病院を受診する方には医療現場の状況、変遷を知ってもらいたい、そんな思いで綴ります。

過去を振り返ると、医師の言うこと絶対期から、パターナリズムが問題になり、医師へのバッシング・訴訟が増え始めました。

その後、医師の過労死・自殺が話題に上がり、バッシング論調が陰ると同時に医師の異常な働き方が広く認識されるに至りました。

時間外労働時間の上限は一般の業種の労働者が年 720 時間である一方、医師は形のうえでは年 960 時間、特例として年1860 時間と設定されています。

とはいえ、年1860 時間以上働いても法律上問題ないですよ、というのが2024年3月までの話です。

私が研修医だったころ月に300時間以上時間外労働をしていました(定期手術、緊急手術、夜間の呼び出し対応を寝ずに繰り返すと達成できる)。

過労死ラインの目安が月80時間以上とのことで、死なずに乗り越えられたようです(一時期、抗うつ薬は内服した)。

これから医師として頑張る後輩たちには過労死や自殺をしないでもらいたい、と願っているところで今回の法改正です。

医師の過剰労働に頼ってきた医療機関は機能ダウンしそうです。

とはいえ、法改正は何年も前から告知されてきたので、さすがに対応してきたでしょう、と願います。

 

では本題、今の職場の状況を公開します。

当たり前のように時間外労働に給与が支払われ、日当直(朝9 時から24時間の全科救急+病棟対応)の翌日は平日でも13時に(こっそり)帰れる。

これだけでも天国のように感じます。

さらに、どうにも雑務が少なく、PHSへの連絡も少ないのです。

病棟や外来では、持参薬の継続や内服処方、点滴処方の有無について聞かれるので口頭で答えると、そのまま代行処方してくれます。

医師指示も追加があれば口頭で伝えるだけでOK(もちろん、基本的には医師が入力します)。

画像検査や心電図、エコーなどのオーダーも口頭で伝えれば代行入力していただける。

看護師さんだけでなく、救急隊員(院内に所属しているのです)、医療事務の方も代行できます。

腸閉塞で胃管を入れて置いたら深夜に自己抜去してしまったとしても、看護師さんが留置して腹部レントゲンを撮るところまでやってくれます。

あとは担当医または当直医がレントゲンの確認のみでOK。

これらの代行入力は、あとでカルテ上で代行一覧を確認し、まとめて承諾して完了。

保険の書類(個人的にとても苦痛を感じるもの)もほぼすべて医療事務の方に入力していただき、医師は確認した日付をクリックして終了。

もう、とってもありがたい。感謝感激です。

タスクシフティングが進んでおり効率がよく、無駄なストレスを感じません。

医師は医学的判断、治療に専念すれば医療現場は問題なく回るんだなあと新鮮な気持ちになりました。

皆様の病院はここまでタスクシフティング進んでますか?

当院は市中病院でややワンマンなところがあるのでトップダウンで改革を強行できたのかもしれませんが、やろうと思えばできるのです。

(タスクシフティングに消極的なスタッフには離職してもらったという経緯はあるようです。)

勤務医の皆様、我々が絶対にやるべき仕事は想像以上に狭く凝縮してるのです。そこに専念できることが理想的なのではないでしょうか。

管理者の皆様、タスクシフティングはもっともっと進められるのです。気づいていないか、やっていないかのどちらかです。

ブラック病院にいたころは、病棟に行けば「○○先生に処方・検査を依頼したのに、まだやってくれてない!」といった愚痴を聞いたものです。

あなたが代行すればいいのです。10秒で解決できる問題です。

あなたの病院の仕組みが悪いのです。

もういい加減、改善しましょう。

無駄なストレスが減ります。

タスクシフティングの参考になれば幸いです。

 

さて、ここからは医師の働き方改革を巧みに回避するブラック病院の闇を暴露していこうと思います。

4月からは時間外勤務の時間制限が勤怠管理における厳しさの一つです。

当然、毎日深夜まで働かせることはできないはずです。

では、「働いていない」としてしまえばいいじゃないか!というのが抜け道①です。

検査の待ち時間、病棟にいない時間、学会や論文の準備は勤務時間じゃないよね、という感じ。

外科医の場合、手術の勉強、準備、練習はすべて「自己研鑽」で勤務にあらず。(とはいえこの「自己研鑽」をやらない人はいないよね)

病院によってはビーコンで管理されているところもあるようです。

常に位置情報をチェック・管理するのか…(私ならそんな病院絶対行かないw)

では、ずっと病棟や手術室にいたのなら自動的に時間外給与を発生させているのですか、というと口ごもってしまうのが現状でしょう。

まあ、この抜け道は以前から予想されていたものですね。

抜け道②:宿直許可の乱用

「宿直許可を得た宿日直」とは、労働基準監督署長の許可を受けることにより、労働時間等に関する規制の適用が除
外となるものであり、一般の宿直業務以外には特殊の措置を必要としない軽度又は短時間の業務に限られることや、宿直
の場合は夜間に十分睡眠がとり得ること等が必要とされています。

つまり、ほとんど仕事がなくて寝てるだけなら勤務時間にいれなくてもいいんじゃない、というものです。

俗に寝当直といわれることもあります。

すると、うちの病院は寝当直ですわ、と申請する病院が多発します。

(!?)…そうですね… まあ、寝当直ということで、宿直許可を出しましょう。

ということで、えっ?、と思う病院も宿直許可を得ることで、夜間の時間外勤務を計算に入れなくて済むようにする、というスキームです。

夜通し1-2時間ごとに起こされていた前の職場はどうかと聞いてみると、なんと宿直許可ゲットしていました(これを学会発表していて笑った)。

産科でいつでも分娩しうる病院でも宿直許可が出ているとか。

機能ダウンすると困る地域の中核病院は、忙しいにも関わらず、逆説的に宿直許可が出やすくなっているのかもしれません。

働き方改革は本来医師の過労死や自殺を防ぐ狙いがあったはずなのですが、本末転倒の様相です。

 

病院

ということで、勤務医である私が考える生存戦略は、

① 雑務に忙殺されているなら、とりあえず勤務先を変えて冷静になる時間を作る

② 自分の目標を再確認し、労務環境を考慮したうえで最善と思う環境に身をおく

③ そのうえでしっかり働き、勉強し、業績を積んで市場価値を高める

自身の年齢や家族構成によっては理想的な勤務先変更が困難かもしれませんが、調べてみると知られていなかったいい病院が見つかるかもしれません。

ブラック病院からの脱出は第一歩ですが、自身の研鑽もかかさず、その結果を患者さんに還元していきたいものです。

労務環境の良い病院には良い医師が集まる、というのが理想的な将来像かなと想像します。

 

新卒の医師が大学の医局に入らない、「医局離れ」が進んでいます。

原因は明らかなのでここでは言及しませんが、つまるところ、新しい医師たちはより自らに最適化された環境を選択する傾向にあるといえます。

自由で柔軟な取捨選択能力を持った医師を引き付けるために何が必要か、という視点が管理者に求められるように思います。

 

医師からのタスクシフティングが進むと、コメディカルの負担が増します。

看護師記録はバイタル諸々をいったん紙に書き、それを電子カルテに入力していないでしょうか。

点滴や処方薬の伝票をいったん紙で印刷していないでしょうか。

ICTを導入し、測定器から電子カルテに直接入力されたり、薬局ではロボットを導入して自動的に薬剤選択、各病棟への運搬できれば随分楽になると思うのですが、夢物語でしょうか。

少なくとも、看護助手の導入を進め、誰にでもできる業務から解放されるといいのでは。

 

病院を受診する側の方にとって、病院の内部事情は分かりにくいものと思います。

これまでの話を読み、当たり前のことができていなくて効率が悪い、と思われたかもしれません。

医療現場は閉鎖的な環境であり、独自の文化が根付いて変化に乏しい印象を受けます。

しかし、内部には危機意識を持っている者もいるので、変化していく様を見守ってください。

医師の過剰労働による力業で成り立っていた病院は今後、窓口の縮小、受付時間の短縮といった目に見える変化が起きるかもしれません。

医師の過労死を防ぐためだと思い、ある程度受け入れてください。

一方で変化がないにしても、相変わらず過剰労働でフラフラの医師たちによる綱渡り的診療を受けることになるかもしれません。

危なさそうな病院は回避したいものです。

個人的な意見ですが、すでに地域の中核を担っており社会医療法人の認定をうけられそうなのに医療法人のままの病院は危険だと思います。

社会医療法人には公益性の高い医療の提供が望まれている分、それを補うための数々の優遇措置がなされているため、普通の感覚なら積極的に認定を目指すはずです。

(医療保健業の法人税等は非課税です。魅力的でしょ)

一方で、社会医療法人となった場合は公開される(市民が閲覧できる)情報が増えます。

たとえば、

全ての医療法人:事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、監事の監査報告書
社会医療法人:医療法第42条の2第1項第5号の要件に該当する旨を説明する書類、理事等に対する報酬等の支給の基準、保有する資産の明細表
医療法第51条第2項に該当する医療法人及び社会医療法人:付属明細表、純資産変動計算書、公認会計士等の監査報告書
社会医療法人債発行法人:キャッシュフロー計算書

福岡市のホームページより

という違いが。

「理事等に対する報酬等の支給の基準、保有する資産の明細表」に問題でもあるのかな、と邪推してしまします。

ブラック企業ってなんのためにブラックなのかなあ、と。

これは一意見なので、個々の判断は皆様にお任せします。

 

泣いても笑っても来月から適応される「医師の働き方改革」。

果たしてどんな変化が待ち受けているのでしょうか。

少しでも良い方向に舵をきれるといいですね。

 

 

(ブラック病院から素早く脱出する皆様を応援するアフィリンクは以下)



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