COVID-19(新型コロナウイルス感染症)と川崎病について

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新型コロナウイルス感染症の患児の一部で川崎病様の症状が引き起こされているのではないか、と欧米で報告されております。

日本では日本川崎病学会より声明が発表され、同様の症状は国内やアジアで報告されていない、とのことです。

 

川崎病って聞いたことはあるけど詳しくは知らない・・

聞いたこともないけど・・

という方も多いのではないでしょうか。

私も日常診療で出くわすことはほぼありません。

 

川崎病自体は1967年に川崎富作先生が自験50例のケースシリーズを報告して注目された疾患ですが、未だに原因はわかっておりません。

乳幼児や小児で全身の血管、中小動脈で血管炎を引き起こすことで発熱や眼球結膜の充血、手足の硬いむくみ、皮疹、口唇の腫脹、頸部リンパ節の腫脹・疼痛などが出現します。

心臓の冠動脈への影響もあり、動脈瘤が出現し、その後冠動脈の狭窄や閉塞による心筋梗塞を発症することもあります。

原因に関して様々な仮説がありますが、最も受け入れられている病原仮説として、

何らかの遺伝的素因を持つ患児において、1つ以上の未確認病原体に対して免疫系が異常反応するためではないかと考えられています。

しかし、その原因となる病原体感染は特定されていません。

そんな中で今回の新型コロナで川崎病様の症状が出るのではないか、と報告されております。

小さなお子様を持つ家族が心配になる内容でもあります。

 

では、事の発端となった報告の一つ、イタリアからの論文1)を見てみましょう。

イタリアのベルガモにあるPapa Giovanni XXIII病院の一般小児科病棟に入院した川崎病と診断された患児のカルテを後方視的にレビューしたものです。

こちらの病院、イタリア最大の小児肝移植プログラムと北イタリア最大の小児集中治療室(16床)を有しております。大きい。

2015年1月1日から2020年2月17日の新型コロナ流行開始までの5年間に、川崎病と診断された19人の患児(男児7人、女児12人、平均年齢3.0歳)をグループ1とします。

一方、2020年2月18日から4月20日の間に診断された10人の患児(男児7人、女児3人、平均年齢7.5歳)をグループ2とします。

新型コロナの血清検査は、グループ1で検査された2人中0人に対し、グループ2では10人中8人が陽性でした。

心臓病変、血圧低下や末梢循環不全を呈する川崎病ショック症候群(KDSS)、サイトカインストームの一形態であるマクロファージ活性化症候群(MAS)はいずれもグループ2で有意に多く認められました。

・つまり新型コロナ流行後で、コロナの血清検査陽性が多いグループ2の方が重症になりやすいようです。

また、グループ間で異なる観察期間における救急外来への紹介数の影響を除外するために、救急外来を受診した患者数で補正した川崎病発生率を算出すると、グループ1では0.019%であったのに対し、グループ2では3.5~3.6%でした。

・つまり、新型コロナ流行後は184倍多く川崎病が発生しているとのことです。

 

さて、日本川崎病学会の声明では

本邦および近隣諸国では現時点で川崎病と COVID-19 との関係を積極的に示唆できるような情報は得られていません。

日本川崎病学会は今後も両疾患の動向について注視して参りますが、現段階では一般の方に過度の不安を与えることのないよう、そして、川崎病の診断基準を満たした場合には適切な治療を遅滞なく開始下さいますようお願い致します。

と締めくくられております。

早速「参考資料」をみてみましょう。

日本川崎病学会運営委員56名を対象に質問をメールで行った結果、34委員から回答がありました。

グラフにしてみると・・

 

Q1 例年と比較して川崎病の発生状況に変化はあるか?

川崎病 1

 

Q2 川崎病例の重症度、重症例の発生状況に変化はあるか?

川崎病 アンケート

IVIG:免疫グロブリン静注療法

 

Q3 小児COVID-19患者を診療した場合、

1) COVID-19患者数 → 27人(全員軽症・無症状)

2) COVID-19患者の中で報道のような(重症)川崎病を疑う症例が存在したか? → 34人全てなし

3)(重症)川崎病例の中でCOVID-19を疑う症状を示す患者が存在したか。

なし:33人

あり?:1人(急性期に肺野に浸潤影を認め、PCR検査は陰性)

 

まとめると、日本では川崎病発生頻度も重症度も変わらず、新型コロナと川崎病は関係なさそう、というところでしょうか。

上記アンケート結果より日本は欧米で報告されている状況とは異なると判断されています。

なぜ日本と欧米で異なるのでしょうかね。

以前言及したアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体の人種間差が影響しているのでしょうか。

先の論文では、グループ1では19人中14人、グループ2では10人中8人が白人であった、とのことで大半が白人の集団ということになります。

あるいは、「川崎病」症状と記載されているように、もしかしたら日本で観察されている川崎病とは異なる疾患なのかもしれないな、と思いました。

まだまだ分からないことが多い状況であり、更なる研究が必要ですね。

 

<参考文献>

  1. Lucio Verdoni, Angelo Mazza, Annalisa Gervasoni, et al. An Outbreak of Severe Kawasaki-like Disease at the Italian Epicentre of the SARS-CoV-2 Epidemic: An Observational Cohort Study. Lancet. 2020 May 13.

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