英語医学論文の書き方【ネタ探し、投稿先検索、統計処理などアクセプトまでの道を解説】
そろそろ医学論文を書いてみたいな。
上の先生から論文書けって急かされているけど、書き方がわからない…
論文を書こうと思っているけど、書かなくちゃいけないけど、書いたことがないからどうすればいいか…
とお悩みの方、結構多いはず。
専門医や指導医をとるにしても筆頭著者で論文が必要になったりしますよね。
日本語の論文でOKだとは思いますが、せっかくの機会ですから英語で書いてインパクトファクターをゲットしてみるのもよいのでは。
大学の医局に所属している方は、同じ医局員の先生方から書き方の指導を受ける機会もあるのでしょうか。
私のような、初めから医局に属していないフリーの外科医は、そういった指導を受けられるか運次第なところがあります…
初めて論文を書こうと決意した日、上司に相談したら、
俺も英語論文書いたことがないからわからない
と。
そこから自力で本やネットで調べに調べ、なるべくお金がかからない方法を探し(ここ大事)、息も絶え絶えアクセプトにたどり着きました。
英語も論文も苦手だった私が苦戦しながらCase reportやOriginal articleを投稿するなかで感じたのは、
論文を投稿するまでに具体的に何が必要なのか、まとまった解説があるといいな、ということ。
一度アクセプトまでたどり着けると、2回目以降は結構簡単に書けるようになります。
最初の一歩を踏み出したい方に少しでも役に立てたら、ということで私が論文(case reportやretrospective study)を作成する手順を紹介します。
もちろん、この方法が全てではありませんし、ランダム化比較試験(RCT)の場合はもう少し手順が増えます(私はやったことがない)。
論文作成の一例として、参考程度にご覧ください。
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ネタ探し
ある程度臨床をやっていると、この症例は珍しいな、という「チャンス」に巡り合うことがあるはず。
あるいは、「こういう時の術式は何がベストなんだろう」といったクリニカルクエスチョンが浮かんだり。
こういうの、良いネタです。
ここで早速論文化できそうかどうかの確認作業に入ります。
まずは先行論文の検索から。
英語のキーワードがぱっと思いつくなら、PubMedで調べ始めます。
思い浮かばない時は、医中誌(だいたいの施設で契約しているはず)で検索します。
(医中誌とJ-STAGE、メディカルオンラインが使えると、日本語論文の検索がはかどります。)
似たような内容の文献や、キーワードが入っている文献を見つけたら、本文をチェック。
タイトルやアブストラクトが英語で記載されていることがあるので、そこで英語のキーワードを確認し、PubMedで検査します。
自分のネタに関係がありそうな論文のタイトル、著者、ジャーナルをコピーしてWordに張り付けつつ、Abstractを確認していきます。
英語を読むのが苦手な方は、Abstractをコピーして「DeepL」で翻訳しちゃいましょう。
このWordに張り付けた文献の下に、Abstractの和訳や、キーワード、一言にまとめた内容を記載しておきます。
これを繰り返し、見返してみると、自分のネタ周辺の「事情」というものがわかってきます。
そこで、自分のネタの「どの点が一番面白いか」を考えます。
似たような先行論文が全くなければ、そのままで十分においしい。
しかし、似ている文献が複数あるようなら差別化する必要があります。
コツは「珍×珍」。
ちょっと珍しい部分をかけあわせると、唯一無二が生まれたりします。
この珍しい疾患でこんな珍しい所見があるのは初である、この集団の中でこの所見がある場合の治療方法はどれが良いか、みたいな。
で、それを知ることでどんなメリットがあるのか、をひたすら考えます。
臨床におけるアクションが変わるようなインパクトがあるといいですね。
この所見を論文にしたらきっと役に立つぞ、と思うところまで詰められたらゴールです。
ここが一番難しく、かつ重要なところだと思います。
このあたりの感覚を学ぶために繰り返し読んだのが、
症例報告では「論文作成ABC:うまいケースレポート作成のコツ」、
臨床研究では「外科系医師のための手術に役立つ臨床研究」という本です。
論文を書けるという自信が沸いてくるので大変オススメです。
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アブストラクト作成
ここで早速アブストラクトを作りにかかります。
論文はまだでも、学会発表の経験がある方は多いはず。
演題登録をする際に抄録を作成しますよね。
その感じで、まずは日本語でいいのでざっくりしたアブストラクトを書きます。
データが集まっていなければ、その辺は穴あきで構いません。
書きあがったらDeepLにペーストすると、英語のAbstractが完成します(笑)。
(論文ならではの言い回しがあるので、わかる範囲で修正します。)
そして、ネタの肝になる部分をタイトルにします。(DeepLを活用すると一発。)
これで、英語のタイトル(仮)、アブストラクト(仮)ができました。
後は本文を書いたら完成型に持ち込める、という実感がわいてきます。
英語論文の言い回しについては、「英文校正会社が教える 英語論文のミス100」という本が分かりやすいです。
繰り返し読みつつ実際に書いているとだんだんセンスが身についてきます。
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必要な書類の準備と事務作業
論文を提出する際に必要な書類があります。
凡そ全てのジャーナルで必要になるのが、「病院の倫理委員会に提出する資料」、「臨床試験登録」、そして「同意書」です。
論文投稿に際して”Ethical considerations”の項目に上記を記載する必要があります。
This study was approved by the Ethics Committee of ”所属する施設名” (approval no.: ○○○) and was registered at the University Hospital Medical Information Network (UMIN) Clinical Trial Registry (UMIN○○○).
Written informed consent was obtained from the patient for publication of this case report.
みたいな感じで記載します。
病院の倫理委員会に提出する資料を作成する際に、先ほど書いたアブストラクトが役に立ちます。
施設によっては迅速審査がありますが、修正が必要になって結構時間がかかることもあるので早めに対応しておきます。
臨床試験登録はUMIN臨床試験登録システムを利用します。
(各国に臨床試験登録システムがありますが、日本の研究ならUMINに登録しなよ、というコメントをもらったことがあります)
日本語と英語で記載する欄があるので、適宜埋めていきます。
後から修正できるので、とりあえずわかる範囲で記載しておき、登録完了するとレジストリー番号が手に入ります。
そして同意書です。
うかうかしていると同意書をもらう機会を逸してしまうので、論文化が頭によぎった瞬間に準備しておくとよいです。
病院で用意されているものもあれば、自作して病院の許可をもらっておくパターンもあります。
あらかじめ、病院の倫理委員会に相談しておくとよいでしょう。
これら3つの書類は必須であることが多く、ジャーナルによっては追加で独自のCOI開示の書類(自筆のサインが入ったもの)やAuthors’ contributions(各著者の役割を明示する書類)などが必要になることもありますが、後でも対応できます。
PDFをいじる必要があるときは、オンラインのPDF編集サイト(PDFを編集、PDF 分割)が便利です。
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投稿先の検索
世の中には数多くのジャーナルがあり、自分の研究をどこに投稿するか探すのも一苦労です。
私が参考にしているのは北海道大学のホームページです。
この中で紹介されている投稿先検索ツールのうち、有名な出版社が提供しているツールで一通り検索してみるのが良いかと思います。
Elsevier Journal Finder:Title, Abstract, Keywords, Field of researchで検索
Springer Journal Suggester:Title, Manuscript text, Subject areaで検索 →sugguesterは使えなくなってしまいました‥
Wiley Journal Finder (Beta):Title, Abstractで検索
AMERICAN JOURNAL EXPERTSという機関が無料で提供しているツールもあって、ジャーナル内の類似論文が参照できるところが便利です。
JournalGuide:Title, Abstractで検索
そうです、すでに英語のTitleとAbstractが完成しているので、コピペすればよいのです。
ヒットしたジャーナルがどのような論文を出しているのか確認し、雰囲気があっているものを探します。
(大規模RCTばかり載せているようなところに少人数のレトロは厳しいかも、といった感じ)
”Submission guidelines”を読むと、”Types of papers”が記載されていることがあります。
・Original Research Articles
・Reviews
・Case Reports
など。
Case reportを投稿しようとしている場合は、Case reportを受け付けているか確認します。
Open choiceかどうかも重要。
全例Open access(誰でも無料で読める)としている場合は、投稿者が論文掲載料(Article processing charge, APC)を払う必要があります。
Open accessとしないことを選択できるジャーナルもあるので、要チェックです。
なにせ、このAPCがべらぼうに高かったりするのです…(しかも昨今の円安が追い打ちをかけている…)
私はOpen choiceでAPCを回避できるところや、学会の補助がでてAPCが安くなるところを第一候補にしています。
検索ツールで記載されているAPCが実際のものと異なる(だいたい高くなる)ことがあるので、必ずジャーナルのホームページで確認しましょう。
インパクトファクターが気になる方は、”ジャーナル名+impact factor” で検索すればでてくるので参考にしてみてください。
注意すべきはいわゆる”ハゲタカ”ジャーナルです。
実態のないジャーナルで、高い論文掲載料で儲けるだけ儲けて、ある日突然姿を消す、そんな悪い奴です。
アクセプトされた論文がそろそろ掲載されるかな、と思っていたらジャーナルのサイトが通販サイトになっていることがあるようです。
ハゲタカジャーナルの一覧を載せているサイトがあるので、投稿前にチェックしてみるのもありです。
個人的には論文がPubMedに掲載されているか、少なからずインパクトファクターがあるかどうかチェックするようにしています。
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データ収集と統計処理
Abstractに沿って、必要なデータをリストアップします。
レトロであれば大量のカルテをひっくり返すことになるので、先行文献を参考にしつつ、収集したい項目をもれなくリストアップすることが重要です。
Excelを使ってリストアップするのもありです。
(これで完璧!と思っていても、データ収集漏れがあったりするんですよね…)
症例報告であれば、適切な画像データを収集します。
個人情報保護の目的で、画像データ収集の申請が必要な病院もあるので、確認しておきましょう。
統計処理が必要な場合は統計ソフトを使います。
既に病院や医局で統計ソフトが使える場合は、是非有効利用しましょう。
統計ソフトがないときは、統計ソフトを買いましょう。
SPSSやStataが有名ですかね。
SPSSならBaseを 37万円で買えちゃいますね。うへ。
安心してください。
無料の統計ソフトもあります。ダウンロードして使いましょう。
「無料の統計ソフトを使っていてアクセプトされるの?」
という疑問をもたれる方もいらっしゃると思いますが、大丈夫です。私もアクセプトされています。
その名も「EZR」。
Rというフリーの統計解析ソフトに多彩な統計解析機能を組み込んだものです。(EZRは”Easy R”由来なんだとか)
自治医科大学付属さいたま医療センター血液科のホームページからダウンロードしましょう。
EZRを使って統計処理した場合は、その旨を”Method”の” Statistical analysis”に記載します。
All statistical analyses were performed using EZR (Saitama Medical Center, Jichi Medical University, Saitama, Japan), which is a graphic user interface for the R statistical program (The R Foundation for Statistical Computing).
といった感じ。
そして、”Bone Marrow Transplantation 2013: 48, 452–458”を参考文献として引用します。
これで準備完了。
ここで問題が…
あの…統計処理やったことがないんですけど…
私にとって最大の難所は統計処理でした。
恥ずかしながら、統計の本をいくつか買ってみたものの正直よくわからなかったんですよね…
しかも統計処理が必要となるシーンに出くわさなかったので手つかずのままとなってしまっていた。
論文を書いたことがない方は同じような境遇かもしれません。
お金をかけずに勉強したい私は、ひたすらネットで検索しました。
その中で、とても分かりやすかったのが「いちばんやさしい、医療統計」。
無料の統計メール講座に登録し、「もう迷わない!論文を作成するための最短ルートの歩き方」をチェック。
基礎の基礎から勉強すると、どの検定が必要か分かってきます。
ここまで来てやっと、EZRの出番です。
EZRのいいところは、参考書が結構出ているところです。
使い方は参考書片手に触っていると、わかってくるはず。
「いちばんやさしい、医療統計」でもEZRの使い方が解説されています。
一通り勉強すれば、カプランマイヤー曲線を引いたり、Cox比例ハザードモデルを使ったりできるようになります。
長い道のりでしたね。
一度できれば、以後流れ作業でできるようになります。
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本文作成・英文校正
すでに結論に達している状態ですので、あとは書くだけです。
投稿先によって、どのようなフォーマットで書くのか微妙に異なるので、”Submission guidelines”を読んで確認します。
こういうときもコピペで翻訳してくれるDeepLが役に立つんですよね。
投稿先のジャーナルに掲載されている論文をある程度読み進めると、どんな感じで書けばいいかイメージがわいてきます。
Case reportであれば、”Case presentation”なんかは学会発表でやるような内容を英訳していけばいいので筆が進みやすいはず。
Original articleでは、”Materials and methods”や”Results”は事実の羅列なので書きやすい。
Discussionが腕の見せ所で、どのような論理展開で行くか考えます。
初めに作っておいた、Wordの文献+重要なポイントのまとめが役に立ちます。
今回の症例、研究は○○という点で重要である、という結論にうまく結びつけられたらオッケーです。
ざっくり書けたら、Referencesの一覧をジャーナルの書式合わせ、TableやFigureの説明を加え、FigureやTableが別個のファイルにすべきか、ファイルの名前の付け方にルールがあるか、などといった細かい修正を加えます。
参考文献の番号が合っているか分からなくなってきたら、例のWordで内容を確認します。
息切れしそうですね。
”Competing interests”は利益相反(conflict of interest:COI)がなければ
The authors declare that they have no competing interests.
とか、
None.
とかでOK。
”Funding”は特に資金をもらっている研究でなければ、
This study did not receive funding.
と記載しておけば良いです。
“Authors’ contributions”の記載が必要な場合は、
○○ performed the operation. ○○ wrote the manuscript. All the authors read and approved the final manuscript.
といった感じでOK。各著者一人ずつ詳細を記載しても良いです。
出来上がりましたか?
とりあえず英語で書いてみたものの、これで合っているのかわからない。
その通りです。そこで英文校正です。
ジャーナル自体が英文校正を紹介しているケースもあります。親切。
施設によっては外国人医師に依頼するシステムがあるところもあります。便利。
私は業者に英文校正をお願いしています。
普段から使っているオススメが「editage(エディテージ)」です。
論文のときはプレミアム英文校正(11円/単語)を愛用していて、3000字くらいの論文なら3万円ちょい。
無料で再校正できるところが重要です。
ちょっと高いかな、と思われる方もいるかもしれませんが、仕上がりが素晴らしいのです。
ワンポイントアドバイスが付いていて、そのまま英語の勉強にもなる。
しかも、”Covering letter”も作成してくれる。
これが重要です。
初心者の私は、Covering letterなんてファイルがついてきたけど、どう使うんだろう、なんて思っていました…
いざ投稿しようとすると、必要になるんですよ。あー、これか、と理解しました。
0から作るのは大変ですから、この辺までサポートしてくれるなら、editageに任せておいた方が圧倒的に楽です。
Referencesも書式も隅々まで修正してくれ、大変ありがたい。
(たまにAmazonギフト券がもらえるお友達紹介キャンペーンもやっているので、興味がある方は「お問い合わせ」からメールアドレスを送ってください。お客様コード「YSGXJ」を入力してもいけるのかな? )
他にも、「edanz」は初回割引があるみたいですね。(使ったことはないです)
英文校正を経た文章は見違えるように「それっぽく」仕上がっているはずです。
英文校正を業者に依頼した場合は、”Acknowledgement”に記載しておきます。
We thank Editage for editing and proofreading the manuscript for English language.
といった感じ。
これで投稿準備完了です。
後は、投稿サイトでファイルをアップロードしていき、必要な情報を記入して完成です。
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結果は?
投稿サイトをみてみると、自分の投稿論文のステータスがわかります。
“with editor”とか”decision in process”とかですね。
ステータスが変化していれば、査読が進んでいるのでしょう。
結果が出るタイミングは投稿先検索ツールに記載されている”Time to 1st decision”を参考にします。
1-2か月のことが多いですが、もっとかかることもあるので、気長に待ちましょう。
そして期待しないことです。
一発でアクセプトされることはほとんどありません。
Rejectでなければ道が開けます。
Revisionが必要であれば、レビュワーに指摘されたことを粛々と修正しましょう。
ゴールまであと少しです。
本文を書き終えたら、再度英文校正。
ここで再校正が無料だと助かるんですよね。
しかも、editageだと”Resubmission letter”を作成してくれるのもうれしい。
“Response to Reviewers”を記載した別のファイルが必要になることもあるので、適宜用意しましょう。
Rejectされたら他のジャーナルへ投稿しましょう。
初めから第2、第3候補くらいまで決めておくと気持ちを切り替えられます。
アクセプト率を考えたらRejectされるのが普通ですからね。
ジャーナル変更にともなって、フォーマットの変更が必要になることがあります。
Submission guidelinesをよく読んで、修正します。
(editageが修正してくれるから最近はほとんど丸投げしていますごめんなさい。)
Rejectであっても有意義なコメントをもらえることがあります。
Reject、修正、投稿を繰り返すうちに論文がブラッシュアップされ、そのうちアクセプトされるはずです。
自分を信じて頑張りましょう。
アクセプトされると出版に向けて準備が始まります。
APCが必要な場合は支払います。
ほぼ論文の形になったものを最終チェックし、問題なければ承認します。
Online ahead of printとして出版されることが多く、割とすぐにPubMedなどの検索でヒットするようになります。
自分の論文がPubMedに載っているのは嬉しいです。(何度もエゴサーチした)
「ORCID」という研究者向けのIDを持って、投稿の際にIDにリンクさせておくと、自動的にORCIDの「仕事」に業績が追加されます。
研究者の仲間入りといった感じですね。
お疲れ様でした
アクセプトまでの長旅お疲れ様でした。
論文を投稿してから来る”Decision on submission to ○○”のメールに
I am pleased to inform you that your manuscript has been accepted for publication.
と書いてあるときが一番テンションあがります。(キター!!って感じ)
これが病みつきになるんですよね。
論文がPublishされてしばらく経つと、自分の論文が引用され始めます。
論文を介して世界とつながれるところが良いですね。
初めての論文作成は大変ですが、アクセプトされる自分の姿を想像して頑張りましょう。
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「Cureus」に論文投稿【無料かつインパクトファクターの付いた謎のジャーナル、査読の裏側も紹介】 | 外科医のアル研