手術に使われる糸はどんな糸?【傷口の糸、お腹の中の糸で心配がある方へ】
「傷口に糸がないけど、抜糸はどうやるの?」
「傷口から糸が飛び出てきたけど、どうしよう!」
手術を受けた後、このような心配も出てくるのではないでしょうか。
医療ドラマでも、この辺の細かい話は出てこないし…
手術に使われる糸は日々進化しています。
溶ける糸や抗生剤入りの糸、バラのトゲのようなものが付いている糸まで様々です。
そのような背景に触れつつ説明しますので、読み終えたころには「糸マスター」になっていることでしょう。
よくある質問を元に解説してみます。
- 抜糸はしなくていいの?
傷口を縫ったら抜糸しなくてはいけない、というわけでもありません。
今は「吸収糸」というものがあります。
この吸収糸は体の中で溶けてなくなります。
なので、抜糸はしなくて大丈夫です。
例えばお腹の皮膚を切った後は、この吸収糸を使って傷口を閉じることがあります。
皮膚の下には「真皮」という組織があり、皮膚スレスレでこの真皮のみを縫合すると、表面からは糸が見えない仕上がりになります。
この糸は傷口が治った後のタイミングで溶けてなくなります。
ただ、あまりにも早くなくなってしまうと傷口が再び開いてしまいますが、その辺はうまく調整されているので大丈夫です。
傷口自体は大体2週間もすれば丈夫に治っているので、それ以降は傷口の心配をする必要はありません。(感染している場合は話が違いますが…)
- 傷口から糸が飛び出てきたけど、どうしよう!
先ほど出てきた、皮膚の下を縫う場合、糸の端っこが皮膚に出てきてしまうことがあります。
特に痩せ型で皮下脂肪が少ない方に多いです。
この場合は特に心配する必要はなく、出ている部分を切ればおしまいです。
溶けてなくなる糸のうち、役に立っていない部分だからです。
実は、切らないで放っておいても、根本のところが溶けてボロボロになってきて、勝手に取れてなくなります。
確かに糸が飛び出てきたらびっくりしますけどね‥
いずれ溶けてなくなるはずだったものですので心配する必要はありません。
ところで、抜糸が必要な糸と、そうでない糸を簡単に見分ける方法があります。
ポイントは「結び目」です。
抜糸が必要な「溶けない糸」は結び目が表面に出ています。
一方、抜糸が不要な吸収糸は結び目が皮下に埋まっていて表面には出ていません。
こんなことも一つ参考にしていただければと思います。
- お腹の中の糸はどうなるの?
実は、お腹の中では様々な種類の糸を使い分けています。
例えば、血管には溶けない糸を使うことが多いです。
太い血管を結紮した後に、糸が溶けて出血したら大変です。
胃や腸を切ったあと、断端同士を吻合する際には溶ける糸を使います。
胃や腸がくっついた後に、いつまでも糸が残っているとトラブルの元になるからです。
この溶ける糸も色々あり、抗生剤が添加されているものもあります。
吻合する場所に菌が多いとき、糸の表面で菌が増えてしまうことを防ぐ狙いがあります。
考えましたねえ・・
さらにさらに、バラのトゲのようなものが付いた糸もあるのです。
これは腹腔鏡下手術で使うことが多いです。
この糸の凄いところは、縫い終わった端っこを結ばなくていいところです。
腹腔鏡で糸を結ぶのは意外と難しかったりするので、不慣れな人でも短時間で縫合できるところが画期的です。
このトゲトゲの糸も早いもので約100日で溶けてなくなります。(溶けないバージョンもあります)
このように様々な糸が開発されたことで、手術がより安全で迅速になっているのです。
お腹の中の糸は、溶けるべきところは溶けてなくなり、残っているべきところのみ残っているのです。
余談:
消化器外科領域ではこんな感じですが、心臓血管外科や形成外科では凄く細い糸を使ったりしていて芸術的です。
表面の創についても、どうやったら一層キレイに、確実に治るのか、研究が進められているんですね。
もっと技術が進歩して、接着材みたいなもので全部くっつけられるような時代が来たりして。
<まとめ>
手術では「溶ける糸」「溶けない糸」を使い分けていて、基本的に糸について心配しなくて大丈夫です。